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MTBI (軽度外傷性脳損傷)の一般論
高次脳機能障害だけでなく、外傷性脳損傷です
 本件は「労災保険における高次脳機能障害の取扱い」に限定されるものでなく、労災保険における脳の器質的障害全体にかかわる(高次脳機能障害は、その部分である)。脳の器質的障害による高次脳機能障害などについて、「精神・神経の障害認定に関する専門検討会報告書」に沿って、以下に整理しておく(13頁以下)。
1.基本的な考え方
(1)障害の評価の基本的視点
 神経系統の損傷に伴う各種障害については、損傷された神経の部位を
 脳 脊髄 末梢神経
に大別したうえで、それによって生じる障害を評価することとされているが、各神経部位の損傷に伴う症状として『脳の器質的障害』については、『高次脳機能障害』及び『身体性機能障害』として現れ、『脊髄の障害』及び『末梢神経の障害』については、『身体性機能障害』として現れることから、脳及び脊髄の損傷による障害は『高次脳機能障害』と『身体性機能障害』にそれぞれ区分したうえで、障害の程度を評価することが適当であると判断した。
 脳の器質的障害による症状は、高次脳機能障害だけでなく、身体性機能障害もあることが、しばしば忘れられ、労災保険における判断にも狂いが生ずる。報告書に沿って、中枢神経系の損傷による障害を整理すると、表のとおりになる。
報告書13
ないし27頁
高次脳機
能障害
身体性機能障害
運動障害
感覚障害
自律神経系障害・胸腹部臓器の障害・神経因性膀胱
脳の器質
的障害
脊髄の障害

 部分と全体の関係は上記のとおりであって、脳の器質的障害の部分である「高次脳機能障害」に限定すると、運動障害・感覚障害・自律神経系障害(神経因性膀胱)からなる身体性機能障害という複雑多彩な症状を見落とし、誤診につながることを強調しておきたい。
 また、労災認定基準2頁において、(2)脳の損傷による後遺障害の障害等級の認定として、ア 高次脳機能障害と、イ 身体性機能障害というように、両者を併存させている(別添1の2頁以下も、5頁以下も同旨)。被災者には、アもイもあるので、制度的にはじめからアの高次脳機能障害だけに限定して、被災者の労災を取り扱うことはできない。
 主治医・専門医の石橋徹医師が、本邦の脳神経外科医は、外傷性脳損傷(TBI=Traumatic Brain Injury)を主に高次脳機能障害だけから論ずる傾向があるという弊害を指摘しつつ、「脳損傷による障害は、高次脳機能障害と身体性機能障害の二つの視点から、検討すべきものといえます」というとおり、外傷性脳損傷全体を取り扱うべきである。
軸索損傷についての進歩―軸索損傷が画像で診断できないこともあること
 1993年のGennarelli分類には、6時間以上の意識喪失を伴うびまん性軸索損傷しかなく、MTBIの疾患概念がまだ含まれていない。2004年のWHOの診断基準は、受傷後の意識障害が軽度である場合を規定しており、ずっと意識消失状態が続く場合に限られるGennarelli分類より、医学的に進歩している。
 MTBIの病態は、脳の中で情報の伝達を担う軸索と呼ばれる神経線維が、多発性に損傷された結果起きてくる病気である。なお、軸索とは、『現代の脳神経外科学』4頁図2−2のとおり、脳内に無数に存在する神経細胞の部分である。
 
「MTBIの経過と予後」――「外傷性軸索損傷の病態生理学によれば、元来軸索損傷は、それぞれの軸索で損傷の度合いが異なり多様である。そして、それぞれの軸索は、崩壊に向かう軸索と回復に向かう軸索とが損傷を免れた軸索の間に混在しており、それぞれが独自の経過を辿る。このために、ある活動単位を司る軸索群の変性が量的にも、質的にも、ある閾値を越えた時に臨床症状が出現することになる。このために、MTBIでは受傷直後にすべての臨床症状が表出するわけではない」。
 病名としての「びまん性軸索損傷」(Gennarelli分類)と、MTBIの病態としての軸索損傷を区別しなければならない。
高次脳機能障害の診断基準
 高次脳機能障害が、本件外傷性脳損傷の一部分にすぎないことは前述したとおりである。
 この高次脳機能障害診断基準によれば、J.主要症状等、K.検査所見、L.除外項目などが示され、「なお、診断基準のJとLを満たす一方で、Kの検査所見で脳の器質的病変を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る」と明記されている。
 Kにいう脳の器質的病変を確認するための検査所見は、MRI,CT,脳波「など」とされており、この検査が補助診断法たる画像検査に限定されないことは、明らかである。厚生労働省・労働基準局も、画像「等」の中に、神経診断学にもとづく他覚的所見も含まれるとし、また、この「なお書き」の規定も「慎重な評価」を定めており、画像所見を絶対化していない。
 むしろ、石橋医師による整形外科・脳外科の検査・問診から、神経各科への紹介検査という、長年の経験を踏まえた神経診断学の駆使にもとづく総合診断は、客観性の高いものであり、まさにこの慎重な評価に値する。
 なお、画像偏重にもとづく判断は、次のような裁判例などによって克服されている。
損傷部位
年 次
判 決
種 類
 脳  18.5.26  札幌高裁  交通事故
 脳  19.12.28  長野地裁  公務災害
 脊髄  20.6.4  東京高裁  労災
 脳  21.3.26  大阪高裁  交通事故
 脊髄  22.3.25  東京高裁  公務災害
 脳  22.7.22  神奈川労災審査官  労災
 脳  22.9.9  東京高裁  交通事故
 すなわち、いずれも画像に見えなくとも、他覚的な神経学的所見により、脳・脊髄という中枢神経系の損傷の存在を明確に認めているのである。特に、19.12.28判決の7(7行目)ないし15,16頁(2(1))のとおり、石橋医師により、受傷機転・運動障害・知覚障害・脳神経麻痺・高次脳機能障害が体系的・包括的に検討され、脳の軸索損傷が詳細に鑑定されており、本件被災者の場合もこれに当たる。
WHOのMTBI診断基準が確立されるまで
 軽度外傷性脳損傷(Mild Traumatic Brain Injuryなので、MTBIという)の疾患概念は、1993年以来、次のように提唱されてきた。・アメリカ・リハビリテーション医学会(American Congress of Rehabilitation Medicine=ACRM アクルム)のMTBIの定義が示されている。
・島克司「軽症頭部外傷の診療指針」(軽症頭部外傷とは、MTBIのこと)93頁右2行目以下、97頁左24行目以下、98頁のFig.1に引用される、EFNS(ヨーロッパ神経学会連盟)によるMTBIのガイドライン
 日本語論文が引用する文献46)原文(EFNS guideline on mild traumatic brain injury)。その212頁Figure1が日本訳されている。
・米国におけるMTBIに関する連邦議会報告――CDC(アメリカ疾病対策センター)による「MTBIの偶発事例の推挙される概念的定義」
 このような欧米の知見を踏まえ、MTBIの概念的定義は、WHOという権威ある国際機関により認知されている。
 よって、「軽度外傷性脳損傷は、医学的な証拠に基づき確立した傷病ではない」とするのは、井の中のかわずにも等しい独りよがりな意見に過ぎない。厚生労働省(労働基準局)がMTBIの疾患概念を否定していないことからも、かけ離れた意見である。
存在と意識(認識)の関係
 石橋医師による現症の診断は、神経診断学を遺漏なく駆使しており、外傷性脳損傷の確定診断は明らかである。
 受傷後の、湖南病院・ひまわり診療所以外の診断は、基本的にMTBIを診断するために必要な神経診断学を施行していないので、そのカルテも不十分なものにならざるを得ない。
 したがって、MTBIの受傷直後からの存在という客観的事実と、それに対する人間(医師)の認識とは、区別して考えなければならない。すなわち、神経診断学に遺漏があれば、事実を認識する(意識が存在を反映する)ことはできず、MTBIは見落とされ、重症患者が誤診されるというはめに陥る。
 しかるに、現症にたいして神経診断学を駆使したように、カルテや被災者の陳述を医学的に検討して、MTBIの存在をあぶり出すことは、相当因果関係の解明に資するものである。
あとから「正しい原因の究明」(労災の理論と実際)が可能なわけ
 神経細胞は生涯細胞だから、損傷の痕跡がのこるため、神経診断学によって、脳内の神経細胞の損傷を把握することができ、本件事故との因果関係を推定できる(血液細胞が1日に3000億個あまり死に、その数だけ新生し補給されるのに対し、脳神経系の細胞は、生後は分裂することがない――多田富雄『生命の意味論』26頁)。『現代の脳神経外科学』8ないし9頁に、「神経細胞が障害されれば、その神経細胞の果たしている役割は完全に喪失し、回復はまったく期待できないわけで、この現象が神経組織障害後の機能脱落となって現れる。神経学的検査法は、ここに根拠をおいて、障害部位の診断を可能にしている」と説明されているとおりである。画像と異なり、神経診断学(神経学的検査法)は、一定期間をへたあとでも有効なのである。しかし、遺漏の多い検査からは、かかる事実が見えてこないのである。
 外傷性脳損傷全体についていえば、次の表のように整理される。主に、精神機能3つ・身体機能3つ、計6つの症状・障害を視野に入れ、すべてがそろうとは限らないが、それらが一定程度そろえば外傷性脳損傷以外では説明できないし、「頸部捻挫」や「心因性」では診断が支離滅裂になる。

精神機能障害
身体性機能障害
総合診断 認知障害 発作性意
識障害
心因反応 脳神経麻痺>
脳神経外科
運動・知覚麻痺
整形外科
膀胱直
腸障害
神経各
科検査
リハビリ科 精神・神経科 精神科 神経眼・耳・リハビリ科
神経泌
尿器科
 上の表のごとく石橋医師の外傷性脳損傷についての診察は、広範な神経診断学を駆使しているところ(囲みの脳外・整形領域はみずから検査し、他領域も問診)、 認知障害などについては他科依頼して実施している(下線部とそれに対応する下の行)。
 たとえば、石橋医師が遺漏なく実施した脳神経12系列の検査は、坪川孝志教授の赤本『新脳神経外科学』(学生向けの教科書)に詳述されている神経診断学の基礎で(基礎を省略すれば、学生以下になる)、MTBIを見逃さないために必要な検査である。なお、米国の『軽度外傷性脳損傷のためのリハビリテーション・ワークブック』57頁以下にも、同じく12の脳神経とその機能、簡便なテストが一般向けに紹介されている。
 
脳神経外科学の教科書(赤本)は、4章に診断法(神経学的検査)、5章に補助診断法(画像診断)と位置づけているところ(4章が主で、5章は従)、石橋医師は、この神経診断学を駆使して、画像陰性率が43ないし68%にものぼるMTBIの検出にとりくんでいる。
報告書・配布資料の印刷は ⇒ こちら
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